研究者として米国で働くためにグリーンカードを取得した

サンタクロースが一足早く我が家にやってきた。米国移民局からグリーンカードが送られてきたのだ!!

グリーンカードと一緒に送られてきたパンフレット

日本からカリフォルニア州に H-1B ビザで移ってきたのが 2015 年 6 月なので、渡米から約 2 年半で永住権が取得出来たことになる。今後はビザの問題で悩む必要が無くなったことが非常にうれしい。やっと家族全員が米国で自由に就労可能になったのだ。

就労ビザ vs. グリーンカード

就労ビザは、米国の企業で働き始めるためには最も重要かつ最大の障壁である。グリーンカードもしくは米国国籍を持っていない場合、米国企業で働くためには通常、雇用主から H-1B ビザをスポンサーしてもらう必要がある。まず企業は内定者をスポンサーしてH-1B の抽選(倍率は約3倍)に申し込む必要があり、一年に一度だけ行われる 4 月の抽選(当選確率 1/3)に仮に当たった場合、内定者はその年の 10 月からやっと働くことが出来るようになる。この H-1B ビザの当選確率の低さと最低半年以上の待ち時間というファクターのため、そもそも最初からグリーンカードホルダー・米国人以外の応募はお断り、という企業が非常に多い。募集要項に明示的に国籍やビザのステータスに関する条件を書いていることはまず無いのだが(こういった条件による差別が禁止されているため)、書類選考の段階、あるいは面接の途中でビザサポートの必要性を確認されて、グリーンカード無しの場合はお断り、となるケースがほとんどである。

外国人が米国企業に就職する王道は、米国の大学院を卒業後、すぐに OPT を利用して就職することである。OPT は1年間(STEM 分野の場合は +2 年間)有効なので、このインターシップ的な期間の間に H-1B を申請して、当選すればラッキー、はずれ続けたら残念ながら退職して帰国となる。

アカデミアもしくは non-profit の研究所については、H-1B ビザに発行総数のキャップが無い。従って H-1B ビザの取りやすさという点では、大学や non-profit の研究所にポジションを探す、という方がより簡単である。私の場合は米国での研究職を探していた3年前、幸運にもある大学から H-1B ビザをスポンサーしてもらうことが出来た。大学の研究員として就職する場合、通常は J-1 ビザしかスポンサーしてもらえないのだが、別の大学から H-1B でのオファーを受けている旨を伝えたところ、無事に H-1B ビザをスポンサーしてもらうことが出来た。米国は何でも交渉である。ちなみにもし米国永住もしくは企業への就職を少しでも考えているのなら、最初から H-1B ビザで留学した方がベターである。その理由は後述する。

いずれのケースでも、仮に運良く H-1B が取れて就労出来たとしても、米国で働き続けるためにはどこかの時点でグリーンカードが必ず必要になる。H-1B は Max 6 年である。職場がグリーンカードをサポートしてくれる可能性もあるが、雇用主が高いコストと時間をかけてサポートしてくれる保証はどこにも無い。また H-1B は雇用主にヒモ付いているため、仮にリストラされた場合は H-1B も無効となり即、強制帰国となる。更なるデメリットは、H-1B ビザ保有者の配偶者・こどもは H-4 ビザがもらえるのだが、このビザでは就労が出来ない。

一方、グリーカード保有者は滞在期間に制限はなく、 アメリカ国内での就職、転職、離職は自由である(配偶者・こどもも同様)。現在米国で働いている私の知り合いの多くは、ポスドク・院生の間にグリーンカードを取得してから就職するか、もしくは雇用主に H-1B ビザで雇われた後、自分で弁護士を雇ってグリーンカードを取得している。ちなみに私が現在所属する会社の部署では研究員30人中10人くらい外国人だが、全員グリーンカード保有者だ。

グリーンカード申請資格

私が申請したのは EB2-NIW という枠で、雇用主とは無関係に自分が直接移民局に申請できる。日本人研究者の多くがこの枠によってグリーンカードを取得している(注1)。EB2-NIW のメリットは、セルフスポンサーのためいつでも自分で申請できること、申請中の転職が比較的自由に出来ること、そして日本人研究者にとっては審査基準のハードルが低く比較的審査時間が短いこと。ざっくり言うと、以下の条件を全て満たしていれば EB2-NIW 枠でグリーンカードを取得できる可能性が高いと言われている:

  1. 現在の研究と関連する修士号、もしくは博士号を取得している
  2. 論文を数本以上書いており、被引用件数総数が数十件以上(厳密な基準は無い)
  3. 現在、米国で研究者として働いている(研究員、あるいは給料をもらっている Ph.D. 院生など)
  4. 申請者の研究が米国にとって有益であることを証明できる専門家(複数)から推薦状を集められる

あとは特許を保有している、論文誌のエディターあるいはレビューアーをやったことがある、国際的な賞を受賞したことがある、などがあれば更に承認確率が高くなるらしい。推薦状は、最低3通は過去に自分と仕事をしたことがない人(指導教官・共同研究者以外)からのものが必要だと弁護士に言われた。この第三者からの推薦状を集めるステップが重要かつ一番大変で、最も時間が掛かる。

グリーンカード審査プロセス

グリーンカード審査はポイント制のような客観的なものでは無いため、上記の資格を満たしていても必ずしも移民局に承認されるとは限らない。従って嘆願書や推薦状などの書類を抜かりなく準備するために移民弁護士を雇うのが一般的であり、私は4人の弁護士をリストアップしてその中から自分に合いそうな弁護士を選んでお願いした。弁護士によってコミュニケーション方法(チャットベース、メールベース、電話ベース等)、嘆願書作成の戦略(集める推薦状の数、誰にお願いするか等)、弁護士フィー($4,500 - $7,000 程度)が異なるため、自分とウマが合いそうな弁護士を選ぶことは非常に重要なポイントである。

グリーンカードの審査には2ステップあり、I-140 が上記の資格を満たしているかの審査、そして次の I-485 が I-140 が承認された後、永住権のステータスに資格を変更する Adjustment of Status (AOS) と呼ばれるステップだ。I-485 審査ではバックグラウンドチェック、指紋採取をされる他、健康診断書類、過去の tax return(確定申告書類)、雇用証明書、給与明細、そして家族も同時に申請する場合は戸籍謄本+英訳なども提出する必要がある。I-140 はいつでも申請できるが、I-485 については国別に backlog(待ち時間)が決められている。EB2-NIW の場合、幸運なことに現在、日本人は I-485 提出から審査開始までの backlog が無い(待ち時間が無い状態を “current" という)。一方で中国人は5年待ち、インド人は10年待ちとなっている。しかし日本人は待ち時間無しとは言え、カリフォルニア州民の場合は I-140 + I-485 の審査に平均1年半くらいかかっているので、準備の期間もいれると順調にプロセスが進んでも最低2年は掛かると想定した方が良い(注2)。もし F-1 あるいは J-1 ビザで留学している場合はまず H-1B にステータスを変更するか、J-1 ビザから直接グリーンカード申請する場合は J-1 waiver というステップを踏む必要がある(注3)ため、更に数ヶ月から 1 年程度、余分に時間が掛かる。書類審査の段階で、証拠不足や書類不備などがあれば移民局から Request for Evidence (RFE) という手紙が送られてくるので、それにタイムリーに返答する必要がある。

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I-140 & I-485

私のグリーンカード取得までのタイムラインは以下の通り。

2015/06 - 渡米、大学に研究員として就職(H-1B ビザ)

2016/05 - 家族が合流(家族は H-4 ビザ)

2016/07 - 移民弁護士をリストアップ、電話した後で弁護士を決定、書類準備開始

2016/08 - 4名の教授・企業研究者から推薦状を書いてくれるという承諾を得る

2016/09 - サイン済み推薦状が揃う。I-140 嘆願書作成を弁護士に依頼

2016/10 - 弁護士経由で I-140 提出。健康診断受診後、I-485 を提出

                 EAD/AP(労働許可証/旅行許可証)も同時に申請

2016/12 - 地元の移民局オフィスで Biometrics (指紋採取)

2017/01 - EAD/AP が送られてくる

                たまたま、ある会社から研究員の空きポジションがあるので

                アプライしないかと誘われる

2017/03 - オンサイトインタビュー。数週間後にオファーが出る

2017/05 - 大学退職。この時点で H-1B ステータスは無効になる

                 (I-485 提出済みなので、pending AOS というステータスになる)

2017/06 - 転職(EAD 使用開始)

2017/09 - I-140 承認

2017/10 - I-485 健康診断有効期限切れ(有効期限は医師のサインから 1 年間)

2017/11 - I-485 RFE。現在雇用されていることの証明と、健康診断のやり直し

2017/12 - 書類再提出から2週間後、グリーンカード(私、妻、こどもの分)到着!!

グリーンカード申請中の転職について

I-485 を申請する際、同時に EAD(労働許可証)と AP(旅行許可証)を無料で申請することが出来る。しなくても良いのだが、家族全員分、必ず申請しておくべきである。申請してからしばらくすると Biometrics のアポイントメントを自動的に入れられるので、指定された日時に地元の移民局に行って写真および指紋を取る。その後、3ヶ月から半年後くらいに EAD/AP コンボカードが送られてくる。このカード(有効期限は1年もしくは2年、そして更新可能)を持っている限り、グリーンカード申請中の転職、国外旅行が自由になるのだ。

いくつか注意すべき点がある。EAD を使うことによって EB2-NIW での申請中であればいつでも転職可能だが(ただし I-140 申請した時と同様の職種への転職に限る)、雇用主スポンサーの場合は I-485 申請後から 179 日以内に転職するとグリーンカード申請プロセス自体が無効になってしまう(はず)。申請後 180 日以降は EAD を使って転職できる(AC21: ポータビリティ・ルール)が、後ほど審査段階で RFE が送られてきて、I-485 Supplement J という雇用証明書の提出を移民局から求められる場合がある。この書類の中で現在の職種、職務内容を現在の雇用主が証明する必要がある。

EAD を使って転職した場合は転職前に保持していたステータス(例えば前雇用主スポンサーの H-1B)を失うので、転職後は国外旅行の際は AP を持ってなければ再入国出来なくなる。また、仮に転職した後で I-140 もしくは I-485 が何らかの理由でリジェクトされた場合、自動的に EAD/AP も失効するので、その時点からオーバーステイ・不法就労となり、一刻も早く退職して国外退去する必要がある。そういう意味では可能ならばグリーンカード申請をしてから承認されるまでは転職しないほうが安全である。

おわりに 

米国で研究者として働き続けるためには、研究能力や英語力はもちろん必要だが、何よりもグリーンカードを早めに取得することが望ましい。就労ビザは取得することが年々難しくなってきており、仮に取得できたとしても年限がある、転職が難しい、配偶者が働けない、などの制限がある。日本人研究者にとっては EB2-NIW という枠を使うことによって、ある程度の労力と時間を掛けることによって比較的高い確率でグリーンカードを取得する道が開けている。

グリーンカード申請のために、特に全くの他人である私のために推薦状を書くことに同意してくれた4名の教授・企業研究者に改めて感謝したい。また、気の滅入る膨大な書類準備と長い審査待ちの際、過去に同じ EB2-NIW 枠でグリーンカードを取得して現在も米国で研究活動を続けている友人たちから多くの有益なアドバイスと励ましをもらうことができた。彼らの助けが無ければ、ここまでスムーズにはプロセスが進まなかっただろう。持つべきものは友である。

 

参考: 米国就職に関する有用な情報を含む書籍・記事

脚注

注1) テニュアトラック Assistant Professor のジョブオファーをもらっている場合等は、 EB1-B 枠で雇用主(大学)からグリーンカードをスポンサーしてもらうことが一般的である。 

注2) 書類審査についてはカリフォルニア州民の場合はネブラスカ・サービス・センター(NSC)での審査となるが、たとえば東海岸在住の場合はテキサス・サービス・センター(TSC)での審査となる。TSC の方が審査が早い(早くて数ヶ月で承認された例もある)ようである。尚、大統領令 13780 を受けて、2017/03/07 以降に I-485 が提出された場合、地元移民局オフィスでのインタビューが必須になった。これにより更なる審査時間の遅延が予測されている。

注3) フルブライト奨学生などの場合は Two-year rule の適用対象になる可能性があり、その場合は J-1 ビザ終了後、2年間以上帰国してからでなければ H-1B ビザやグリーンカードを取得することが出来無い、という厳しいルールがある。Two-year rule の適用外でも J waiver、Advisory Opinion と呼ばれる手続きが必要と言われている(参考: はとさんの伝えたいこと)。